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米の減反政策と米不足について

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.2

2024年8月 業務執行理事 南埜 幸信

今回の米不足騒動

最近スーパーや店頭からコメが消え、コメ不足のうわさが拡がり、生産者も価格が低い提案には出荷に応じなくなってきている。生産者側からは長く続いた米価の低迷から、ここぞとばかりに米価の上昇をということで、価格交渉を優位に進めようとする動きも顕著になってきている。農水省の担当者は、今回のコメ不足現象について、コメの消費は減り続けてきたが、インバウントの拡大など、コメ消費が上向いたことなどがあるが、在庫の確保に問題があるわけではないので安心してほしいと呼びかけているが、スーパーのコメの棚は相変わらずガラガラで、これでは消費者心理として不安になるのは当たり前だ。

お金さえあればいつでも主食のコメは手に入るという幻想が、コメにかかわるバリューチェーンの関係者から消えてきたことは、今回のコメ不足騒動は少しは歴史的な意義があるのかなと感じている。一方では、コンビニのおにぎりや、ファミレスや牛丼チェーンなど、年間とおして長く産地と安定的な契約をしてきたところは、何の影響もないと報道されている。いやむしろ中身のしっかりした米を買ってきている家庭は、スーパーでは米を買わず、ネット販売や生産者との直接取引で調達してきているので、スーパーの棚のことは関係ないともいえる。

価格高騰とマーケットの問題点

ではなぜ少しの消費の変化が、相場にも大きな影響を与え、価格高騰をもたらしてきているのか?これは実は今、一般の野菜や果物のマーケットで起こっている現象と全く同じ中身なのだ。

野菜や果物は、そもそも公設の市場や仲卸を経由したいわゆる市場流通の減少が著しい。結果として、少しの入荷の増減が、価格の乱高下を引き起こすことが日常茶飯事なのだ。つまり、分母である市場流通量が、そもそもの長期減少傾向の歯止めがかからないことから、市場内でのセリで価格を決定している市場のメカニズムとしては、分子である入荷量の幅が価格幅としては増長されるのである。マーケットがシュリンクしていることで、入荷量の変化が、実体以上の価格の増幅をもたらしてしまうのだ。

米も同じ。コメは戦後の食糧難時代から長く、統制経済でマーケットが形成されてきた。政府が米価を決定し、流通販売もいわゆる免許のある認定事業者でないと取り扱いができないという官製市場が主流であった。それが2018年の減反政策の廃止によって、国が数量と価格調整機能を放棄してしまうことで、初めて自由取引による本格的なマーケットが始まったという歴史の上にある。

つまり、需要と供給と食料の安全保障という命題を民間が培ってきたなかで現在があるというマーケットではない。経験値が不足しているのだ。生産や流通や販売量といった、マーケット全体に及ぼす影響を調整して、三方良しで長い時間をかけて構築されてきたマーケットではない。ここに今回のコメ不足問題の歴史的に大きい危うい問題が潜んでいる。目先だけの判断で、ダッチロール状態が進んでいってしまうと、コメのバリューチェーン全体の未来に大きなダメージを及ぼし、取り返しのつかない産業破壊をもたらしてしまうのである。昨日のテレビのニュース報道でも、タイのコメ輸出業者が出てきて、日本からの注文が急増してニコニコ顔だ。

コメの減反政策を問い直す

コメの問題は、この戦後のコメの政策の総括から議論すべきである。確かに戦後の食糧難から始まって、コメの増反は政府の重要な政策となった。一方では、占領政策としてのパンなどの小麦需要の喚起によって、コメの需要そのものは下がることも予想できたが、当時はとにかく国民の胃袋を充足させることが最優先であった。結果として1960年代からコメが余りはじめ、1971年には、コメの減反政策が始まってしまったのだ。

ここでひとつの大きな反省点がある。戦後日本酒の酒造業界は、サトウキビ原料の醸造用アルコールを原料にしたいわゆる安い酒を大量に供給するという「三増酒」の生産に走った。つまりコメを従来の1/3しか使わない日本酒の誕生だ。後で酒造組合の方から聞いた話では、このとき酒造業界が業界を守るために、純米酒の製造に拘っていれば、当時の日本は減反する必要がなかったという試算があったようだ。

結果減反が始まり、酒造メーカーも特色ある日本酒を出荷できなくなり、自身の蔵のブランドが守れなくなり、いわゆる「桶売り」が続出し、結果倒産に追い込まれる中小の酒造メーカーが続出した。

余ったから減反。農地はいちど栽培という最大のメンテナンスを止めると、荒廃が一気に進む。まして水田は水利の問題があるので、もっと深刻な問題が生じる。少なくとも復旧には休耕の期間の2倍の期間がかかる。しかも水利はもっと複雑で、水を引けない水田にしてしまう危惧さえある。

余ったから減らす。この政策は農業ではそもそも間違いだということを、我々は過去の歴史から徹底して反省すべきなのだ。農地の地力などの基礎能力は、私たちの先祖が長い困難な歴史のなかで、積み上げてきた歴史的な偉大な生命遺産(レガシー)。生産物が余ったから栽培を止めるということは、この長い努力と積み上げを、私たちの時代が放棄してしまうことになる。これは絶対に繰り返してはいけない。

「余ったから減らす」から「需要発掘」へコンソーシアムの役割

余ったら新しい需要を発掘する。小麦に席巻されている原料を米で置き換えできないか、生産者からメーカーから流通まで、一般社団法人日本有機加工食品コンソーシアムのような、バリューチェーン全体で新しい開発をすることだ。これが唯一無二の解決の道。国内になければ海外に輸出する。いまこそ歴史を変えていくべき時だと考える。

戦後の国内のみかん栽培も、昭和30年代は産めよ増やせよで、政府はみかんの苗木を植えると補助金を出して奨励した。ところが昭和60年代になると、みかんが過剰になったといって、みかんの木をきれば補助金を出した。みかん園は管理を止めると、瞬く間に雑木林となってしまう。そうしたなかで今年、主産地のブラジルなどで洪水や樹木の病気がまん延して国際的にオレンジの需給がひっ迫し、一部のメーカーの商品からオレンジジュースが消えてしまっている。

異常気象が常態化する現代。余ったから生産を減らしなさいという愚かな政策に振り回されないマーケットを、生産者を軸に日本に構築したいと心底より決意している。有機マーケットの世界では、生産者から加工メーカーそして生協・小売りのバリューチェーン全体で事業構築できる一般社団法人日本有機加工食品コンソーシアムこそ、それができる組織だと確信している。

先日千葉県の匝瑳市で、一般社団法人日本有機加工食品コンソーシアム主催の研修会「米粉専用品種のオーガニックの取り組み」を実施した。関東の米粉専門の加工メーカーはじめ、農水省からも米粉の推進部門の齋官課長補佐にも講義をいただいた。

この試作の実施は、匝瑳市で有機のコメ作りに長く取り組む、佐藤真吾さん。元々は畑作農家で、パタゴニアと協業で、日本でも先進的な匝瑳市のメガソーラーシェアリングのオーガニック生産者だったが、少しずつ田んぼの経営も取り入れ、現在では15haほどの有機水稲も経営する新進気鋭の有機生産者だ。

このエリアは、ほとんどの田んぼが水源から直接パイプラインで田んぼまで用水が来ていて、よその田んぼを通ってきた水が入ってくることはありえない。また、九十九里海岸近くで、砂壌土という土質で、代掻き後の土壌の落ち着きがよく、有機水稲の実施で一番大きな問題の除草について、乗用の水田除草機である、オーレック社のウィードマンが使える。この除草機は、条間はもちろん、問題の株間まで同時に除草できる優れもの。ちょうど北海道の有機たまねぎの栽培が、条間と株間を同時に除草できるキューホーという除草機の開発によって飛躍的に面積が拡大したように、今後の水田の有機栽培は、この条間と株間を同時に除草できるウィードマンの登場によって、いよいよ面積の拡大というフェーズに入る予感がしている。

佐藤さんもこの地域の優位性を理解していて、将来は300haクラス(出荷量想定1600トン)の産地に持っていきたいと夢を語っている。

そもそもこの米粉専用品種。これも農水省の小麦粉に代替えできる米粉の実現という構想で、農研機構を中心に品種改良が続けられてきている。具体的にいうと、いままで日本人が好んで食べてきたお米は、そもそもパンや麺の原料としては適性が無いということである。これが、ベトナムや中国のように、コメの国でありながらコメの麺やパンが無かった最大の理由。つまり、飯米が余ったから米粉にしてというのは、そもそも加工に適さない米を加工していたことになる。これでは当然消費が伸びるはずがない。根本的に本気で、コメの国日本で、コメを使った麺やパンを創り、小麦を利用した日本を植民地化する戦略からの真の解放を図る戦略なのだ。

今年はとにかく初めてなので、精米歩合による味の差、乾式か湿式かによる製粉方法の違いによる差。そして、乳化粘質のための添加として、アルファ化した米粉も視野にいれて、パンや麺だけではなく、スィーツや和菓子の分野にまで米粉の需要の幅を喚起していく施策をする予定だ。年明けのどこかのタイミングで、支援をいただいている農水省もお声がけして、試食会を開催すべく準備を進めたいと思っている。これからの進展も随時配信しますので、ぜひこの萌芽期より何らかの関わりを持っていただきますよう、よろしくお願いします。

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