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三陸沖での水温上昇は世界で過去最大 東北大学2025年プレスリリース・研究成果より

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.31

2025年4月 業務執行理事 南埜 幸信

2025年2月に東北大学から報道機関に発表されたプレスリリースに驚くべき調査結果が発表された。これは漁業関係者や水産事業関係者だけではなく農業関係者にも大きな衝撃を与えたものである。

詳細:国立大学法人東北大学 2025年2月14日付 プレスリリース文書(新しいウィンドウで開きます)

今回東北大学大学院理学研究科(東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)兼務)の杉本周作准教授らの研究グループは、衛星観測データや気象庁が実施した観測航海データなどを用いた三陸沖の状況の分析によって、2023年以降、三陸沖の海面水温が平年より約 6℃高い状態が続いていること、そして、2024年 5月には深さ400メートル付近まで水温が10℃以上も高いことを発見した。また、この異常な水温上昇が、三陸沖の気温を上昇させ、その影響は 2,000m 上空まで及んでいたことを明らかにした。

現在、三陸沖の水温上昇は世界の海の中でも最も高い水準にある。このため、三陸沖の環境を調査することは、世界中の海で起こりうる環境変化を予測し、適切な対策を講じるための非常に重要な手がかりになり得ると考えられるとして、本研究成果は、日本海洋学会の英文国際誌 Journal of Oceanography オンライン版にて2月13日に早期公開されたのである。その研究によると、2023年以降、三陸沖の海水温上昇が顕著になり、最近の約一年間は海面水温が平年より約6℃も高い状態にあることを発見したということである。実はこれは世界の海の中でも最大の上昇幅だということである。

まずはこの三陸沖の大幅な水温上昇の主な原因は、黒潮続流の異常な進路によることが示された。通常、千葉県から東へ流れ去る海流として知られる「黒潮続流」は、2022年末に北向きの進路を取り始め、2024 年春には青森県沖にまで達したとのこと。この異常な流路変更により、豊かな漁場として知られる三陸沖の海洋環境が大きく変化し、地域の気候や水産業への影響が懸念されている。今年の北海道の帯広地域に、一夜にして考えられないような豪雪の被害が出たこととも関連しているのではないかと推察する。そもそも帯広などの北海道の東部は降雪が少なく、スポーツ競技のなかでも、スキーではなくスケートが盛んな地域であった。この帯広が今年の冬は豪雪被害なのである。

この研究の背景としては、近年、日本近海の海流に大きな変化が見られつつあり、地域の気候や水産資源への影響が懸念されている。特に、世界最大級の海流である黒潮は、これまでは千葉県房総沖を東に流れ去っていたが、2022年末から異常に北に迂回するようになり、その北端が 2024年 4月には青森県沖に達した。現在も宮城県沖から岩手県沖に達しており、人工衛星観測データ利用可能な過去 30年間で初めて記録された異常な状態だそうだ。この黒潮続流の異常な進路は、世界三大漁場の 1 つとして知られる三陸沖の海洋環境に大きな影響を与えている可能性がある。そしてこの異常な水温上昇が、黒潮続流の異常進路に伴う南方の高温水の流入によるものであることも発見された。さらに、この水温異常は海面付近だけにとどまらず、深さ700mにまで及び、特に深さ400m 付近までは平年より 10℃以上も高いことが明らかになったのである。これに加え、この異常水温に伴い増加する海洋からの熱放出は冬季の海上気温を大きく上昇させ、その影響は上空約2000mまで及ぶことも明らかにされた。

三陸沖の水温上昇は、現在世界で最も高い水準に達している。そして、本来ならば深さ100mより深い場所では水温が8 度以下になる冷たい海であったものが、黒潮続流の異常進路に伴う南の暖かい水の到来により海深くまで高温化している。この異常な水温上昇は、海洋生態系や水産資源の分布に大きな影響を与えている可能性がある。

実際に2023年以降、瀬戸内海に面した地域で食されるテンジクダイや日本では静岡県から宮崎県の太平洋沿岸に多く分布するミナミクルマダイなどの暖水性魚類が宮城県で初めて観察されるなど、従来の生態系バランスが変化しつつある。近年問題になっている海の藻場の消滅にも大きな影響を与えていると言われている。また、異常水温上昇に伴い活発化する海洋からの蒸発による水蒸気増加は大雨発生など気象現象の激甚化に影響する可能性があることは今後注視していく必要がある。

次号に続く

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