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肥料でもなく農薬でもない新しい農業資材『バイオスティミュラント』とは

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.25

2025年2月 業務執行理事 南埜 幸信

先日北海道の今城さんを中心にした有機農業栽培技術交流会に参加した時に、いま慣行農法でトマトを作っている生産者で、今後有機農業に順次切り替えて、有機認証を取得していきたいという生産者と、じっくり話をさせていただく時間があった。彼らの産地は、農協あげてトマトの産地化に取り組んできたところ、北海道のハウストマトの平均単収の約2倍程度の実績を素晴らしい成果を上げてこられた産地だが、現場はたいへん大きな壁にあたっているということであった。まず反収を求めて、肥料を追いかけるように多く使用してきたところで、土の養分はメタボ状態になっていて、もはや、バイオスティミュラントを使って、根の活動や伸長を補助しないと、根が伸びて活動しないという状態にあるようだ。肥料や農薬だけでは生育の課題が解決できないところまで来ているとのこと。改めて施設農業の現場の問題に驚くとともに、バイオスティミュラント資材がもはや現実的に現場に入り込んでいる事実を初めて認識した。

このバイオスティミュラントという資材。私も初めて名前を見たのは、農林水産省の出したみどりの食料システム戦略の中であった。今までの農業資材は、農薬は農薬取締法で、肥料は肥料取締法で、法律としてその適正な品質保証と生産者での使用基準等は担保されていて、いわゆる無登録の資材の使用は、法律としてできない仕組みが運用されている。しかし、このバイオスティミュラントについては、どちらの法律にも対象とされない資材であり、現場で使用されるのはもう少し先のことと予想していたが、現場の問題の深刻さを認識すると同時に、バイオスティミュラントの必要性が現場で証明されていることに、勉強不足の自分を恥じたのである。

このバイオスティミュラントとは、植物を刺激してその能力を引き出し、植物の健全な成長を助ける農業資材である。日本語では「生物刺激剤」とも呼ばれている。その期待される効果としては、➀植物のストレス耐性を高める ➁収量や品質を向上させる ➂収穫後の貯蔵性を高める ➃肥料の吸収を助ける ➄植物の生理状態を改善する 等がある。その原料としては、腐植物質、海藻・海藻抽出物・多糖類、アミノ酸・ペプチド、ミネラル・ビタミン、 微生物(菌根菌)などが視野に入っている。

そしてその使用目的は、⑴高温や低温、湿害、干ばつ、塩害などの非生物的ストレスを軽減する ⑵減収を抑える ⑶持続的な生産の実現 ⑷異常気象への対策 ⑸肥料の使用量を抑える 等が挙げられている。生物刺激剤ということなので、その特徴としては、➀農薬や肥料、土壌改良材とは異なり、それらの技術を補完する形で働く ➁植物の自然な成長プロセスをサポートする ➂植物がより健康に成長するための環境を提供する等と言われている。そして今、このバイオスティミュラントは、ヨーロッパを中心に世界中で注目を集めており、持続可能な農業への関心の高まりとともに、その重要性が再認識されてきているのだ。ヨーロッパではすでに、バイオスティミュラントは肥料の仲間として、法律で規定されるようになっている。

このような状況で、農業資材としての適性や、使用基準や環境評価等、法律の定義や規制のないバイオスティミュラントについて、農林水産省はやっとガイドラインの制定に着手すると発表があった。これが整うと有機の生産者を含めて、農業者は安心して導入し使用し、その使用を公開することができるようになる。みどりの食料システム戦略のなかで、農薬や化学肥料ではない生物的なタイプの生育促進助長のための資材は、有機農業での活用できる技術として注目されてくるのは間違いないので、むしろ早く生産者が公的な安全保証を受けながら使用する環境は整えていただきたいと切にお願いする次第だ。

次号に続く

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