
有機のキャベツとブロッコリーにみる異変
みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.23
2025年2月 業務執行理事 南埜 幸信
昨年の秋から年末年始越えて最近に至るまで、有機のキャベツとブロッコリーの入荷がほとんど無い状態が続いている。消費者にしてみれば、突然どうしたのかと疑問に思ったり、生産者のところにはあるのに、条件の良い他の取引先に出してしまったのかしらという不信感が生まれたり、突然の異常事態にしかも長く続いていることに日本全体が混乱している。様々な要因が重なってのことだが、やはり一番大きいのは、夏から秋の異常高温だと考える。
キャベツやブロッコリーの原産地は、北西ヨーロッパといわれている。つまり日本より緯度の高い場所であることから元々は冷涼な気候を好む野菜である。そして、降水量も少ない原産地であることから気温が高くて降水量が多いのは元々得意ではない。従って、日本の夏の産地は、長野県などの高冷地や北海道などの、比較的涼しくて、台風の襲来もなく、雨の少ないところ。このような気候を探さないとキャベツやブロッコリーの生育は安定しない。当然夏場の品不足は、これらの適地と言われる産地にも、異常高温とゲリラ型降雨が続いたからだ。この異常気象への対応は、野菜が好む本質的な生育環境の生理的な問題なので、栽培技術の改良だけで対応できる話ではない。また、品種改良で高温耐性をつけるという目標を持ったとしても、遺伝子組み換えなどの飛び道具を使わない限りは、改良には通常10年前後の時間が必要でありこんな短期間での異常気象の出現のスピードには、とても対応できない。
そもそも、今までの日本の農業技術の主流は、秋から冬にかけてハウスや暖房施設を活用して、いかに温度を確保して温めていくかということが課題であり、反対に温度を下げる技術は殆ど実用化できていない。つまりこの夏場の異常高温のスピードは、長い農業の歴史のなかでは、誰もが経験したことのない異常事態といえる。そこでお願いしたいのは、品不足の原因を、生産者や流通業者の責任論に終始するのではなく、これは気温沸騰する地球に命を得ている人類が、力を合わせてこの変化にいかに対応し、命の糧である食料をどのように確保し、子孫に繋いでいくかという地球全体の課題と考えて欲しいということである。ある意味、この地球沸騰の原因を人間が作ってきたとすれば、自分のしたことの後始末をきっちりしないと、自分の未来は確保できませんよということかもしれない。
ではこの秋から冬のキャベツとブロッコリーの不作について、この猛暑との関係をもう少し掘り下げてみたい。この時期の出荷のキャベツとブロッコリーは、夏~初秋にかけて苗をつくり、畑に定植していく。まずはこの定植時の異常高温とゲリラ豪雨が大きなダメージを与えたことが一番の原因だと考えている。
まず苗づくり。すべての生命がそうであるように、生命の誕生から初期成育(人間でいえば3才児くらいまで)は、その生育ステージのなかでは一番温度の必要な時期であり、夏場に苗箱に播種をして苗を育てていくことは、ある意味理にかなっていたのだが、温度が上がりすぎると、モヤシのような徒長苗になってしまい使い物にならない。場合によっては枯死してしまう。特に苗の時点は節間が短く、どっしりと安定感のある苗が良い苗の条件と言われているので、結果なかなか良い苗を育てることが難しかった。
次に、何とか苗を育てても本畑に定植しようとしても、今度は畑が熱すぎで苗が焼けてしまい、せっかく植えても、枯死してしまう苗が続出した。また、ゲリラ豪雨が続くと畑に入れず、定植作業そのものが不可能な地域も続出した。では少し気候が落ち着くまで定植を待てばよいのではという疑問を持たれるとは思うが、実は現在の栽培では昔のように土のベットで苗を育て、苗トリをして手で定植するのでは、生産現場の慢性の人手不足のなかで面積がこなせないということで、小さなセルに育苗用の土を入れ、機械で定植するという技術が主流である。このセル方式の育苗の欠点は、短期間に根が回りきって溢れてしまい、苗の老化が直ぐに始まってしまうということだ。一旦老化した苗は畑に定植しても若返ることはない。老化のスイッチが一旦入ると、人間と同じくなかなか成長しなくなる。
つまりは、現在のキャベツとブロッコリーの苗は、そもそも定植適期が短くなってきているのだ。気候が落ち着くまで苗のまま待って、適期が来たら定植するという対応が難しくなっているのが現状である。そのような状態であるのに、結論として秋が短くなってきているのだから、当然定植適期の幅も短くなってきているのである。この定植適期の短縮化に、生産現場が対応できなかったというのが現在のキャベツとブロッコリー不足の真因である。
定植適期の短縮に合わせた苗づくりと、当然定植能力(定植スピード)の飛躍的な向上が求められる。しかも短期間に集中して定植すると、出荷も一気にピークが来るということも想定せざるを得ない。従来のように青果としてのキャベツとブロッコリーを、安定的に一定期間継続供給していくという出口戦略だけでは対応できないという問題も出てくる。この秋冬のキャベツとブロッコリーの不作を解決していくために、そして、消費者に安定して一定期間供給していくことを可能にするために、私たちは数々の関連するこのような課題に、チームで総合的に取り組むことがいま求められている。生産者・流通・加工メーカー・生協小売り・消費者が一体になった実務チームを創り上げていかないと、この多くの課題は解決できない。ぜひ共有して進めていきたいと思うのである。
次号に続く