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みどりの食料システム戦略誕生の背景 Farm to Fork vol.1

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.15

2024年12月 業務執行理事 南埜 幸信

いま日本の有機農業推のパワフルエンジンとなっている政策が、みどりの食料システム戦略。令和3年5月に公表されたこの政策は、日本の有機農業関係者に大きな勇気と確信をもたらした、まさしく歴史的な政策転換といえる。私などは、生きているうちにこのような時代を迎えるとは思ってもいなかったので、興奮で夜も眠れなかったことを鮮明に記憶している。まさに歴史が変わった。

しかし、この政策の施行後三年が過ぎた今、この歴史的政策を、真の意味で日本の有機農業拡大のエンジンとするためには、検証しなければならない問題や課題も現出してきたことも直視しなければならない。政府の支援をいただいたのに、政策の意図する農業が実現できなかったということになれば、それは日本の有機農業の歴史にとって、取り返しのつかない汚点になるからである。

そこでまず、このみどりの食料システム戦略のモデルになったであろう、ヨーロッパの有機農業推進政策の「Farm to Fork」の内容を皆様と確認していきたいと考える。

(1)ヨーロッパのFarm To Fork戦略とは

欧州委員会は2020年5⽉20⽇、「Farm to Fork戦略 」(以下、FTF戦略)を発表した。Farm to Forkは農場から⾷卓までを意味し、EUの今後の⾷品⾏政の⼤きな⽅向性を示したものだ。2019年12⽉に発表された「欧州グリーン・デ ィール政策」を⾷品産業の分野に関してより具体化し、同政策の中核を成すものとして位置付けられる。これは、「環境」「持続性」といった価値を従来重視してきたEU⾷品⾏政のポジションを⼀段と明確化し、今後の対応を加速化するもので もある。EU市場で事業展開する⽇本の⾷品企業にとっても、重要な内容を含んでいる。

(2)「Farm to Fork」が⽬指すもの

FTF戦略は、⼤きく3つの⽬標を掲げている。具体的には、「EUのフードシステムの環境・気候変動フットプリントを削減し、フードシステムの⾃発的な回復⼒(resilience)を強化する」「気候変動や⽣物多様性の喪失に直⾯ する中で、⾷の安全保障を確保する」「競争⼒と持続可能性の両⽴に向けた世界的な移⾏(transition)の先頭を⾏く」である。これら⽬標の達成により、具体的には以下の実現を⽬指すとした。

  1. 「フードシステムが依拠する⼟壌、淡⽔資源、海洋資源の保護・回復」「気候変動の緩和とその影響への適応」「⼟地、⼟壌、⽔、空気の保護、動植物衛⽣、動物福祉の確保」「⽣物多様性の回復」を実現し、⾷料の⽣産・輸送・流通・販売・消費を含むフードチェーンが環境に中⽴または良い影響を与えるようにする。
  2. アレルギーや⾷の好みを考慮し、⾷の安全や質、動物福祉の⽔準を⾼く保ちつつ、栄養があり持続可能な⾷に誰もが⼗分にアクセスできる状態を確保する。
  3. 単⼀市場の統⼀性を確保した上で、EUの⾷品供給部⾨の競争⼒の発揮、フェアトレードの推進、新しいビジネス機会の創造を実現し、究極的には、最も持続可能な⾷を最も購⼊しやすくなるよう、サプライチェーンの中で公平な経済的⾒返りを⽣み出しつつ、⾷への⼿頃なアクセスを確保する。

以上の3つを実現した状態への「移⾏(transition)」を加速させるため、欧州委は2023年中に持続可能なフードシステムの法的枠組みを提案するとした。

以下では、この「移⾏」に当たり、⽣産・流通・消費の各段階で取り組むべき事項としてFTF戦略に⽰されている内容 を順に解説する。今後、⽂末にある表のスケジュールに従い、これらの内容が順次法制化されていくものとみられる。

持続可能な⾷料⽣産の確⽴

フードチェーンの最上流に当たるのが、第⼀次産業である。その第⼀次産業を持続可能なものとするために必要な事項として、農業と林業を通じた炭素隔離とバイオ・エコノミーへの移⾏を掲げた。バイオ・エコノミーとは、バイオ肥料やバイオエネルギー、バイオケミカルといった⽣物由来資源を中核とした気候中⽴的な循環型経済を意味する。

また、化学農薬の使⽤削減も掲げ、化学農薬の総使⽤量とその使⽤に伴うリスクを2030年までに半減させるための追加的措置を実施するとした。抗⽣物質耐性菌についても⽬標を設定。家畜と⽔産養殖向けの抗⽣物質の販売はEU全体で 2030年までに50%削減を計画する。

動物福祉についても⾔及した。最新の科学的証拠に基づき動物の輸送や⾷⾁処理に関する法律を改正する。また、⾷品のラベル表⽰に動物福祉に関する内容を追加することを検討するとしている。有機⾷品市場の拡⼤についても取り上げられた。欧州委は、加盟国が有機⾷品の需要と供給の双⽅を促進し、2030年までにEUの農地の少なくとも25%が有機農地となるよう、有機⾷品に関する⾏動計画を進めるとした。

以上を実⾏し達成するために、共通農業政策(CAP)を通じた⽀援を導⼊する。加えて、持続可能な⽔産養殖に関する 各加盟国の計画策定を⽀援するEUガイドラインを採択した。これは、陸上での動物⽣産よりも養殖⿂や⽔産⾷品の⽅が環境負荷が⼩さいためだ。具体的には、欧州海洋漁業基⾦による⽀援、藻類産業のサポートといった措置を講ずるとしている。

畜産と養殖漁業を合わせた里海・里山資源一体のなかで、持続的な食料生産システムを実現しようとする。これが、みどりの食料システム戦略の基本的な理念であり価値であることを皆様と改めて確認したい。農業だけのシステムではないことが重要な認識である。

次号に続く

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