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有機農業のあるべき姿とは~持続型社会はオーガニックからvol.5

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.14

2024年11月 業務執行理事 南埜 幸信

(5)山室真澄氏の著書「魚はなぜ減った?」より

水田からの除草剤の流出問題

東京大学の山室真澄教授の「魚はなぜ減った?見えない真犯人を追う」という著書のなかでもう一つの問題提起。それは、日本の水田に散布された除草剤が河川に流出し、人間の健康を蝕んだ事例である。CNP(クロルニトロフェン)は、1965年に日本で農薬として登録された除草剤で、全国の水田で使用されていた。この除草剤が使われていた頃の日本の胆道がん死亡率は、人口動態統計の完備している国のみでみると、男性は世界1位、女性は2位と非常に高かった。さらに国内で比べると新潟県の胆道がん死亡率が日本一高く、新潟県内でも水田地帯を流れる阿賀野川や信濃川などを水道水源としている下越地方のほうが、ダムや地下水を水源としている上越地方より患者が有意に多かった。

日本農村医学会雑誌1996で山本正治氏は、遺伝的素因、胆石胆道炎の既往症、粗食習慣などを有するハイリスクグループに環境要因が作用して、胆道がんが多発するとの複合要因仮説を立て、どのような環境要因が原因か25項目について検討したところ、主因として水道水のCNPが疑わしいと結論した。

参考資料:土と健康 2022年3・4月号掲載 4ページ表1 “新潟市と上越市における河川と水道水中の除草剤CNP濃度”
引用元:引用元タイトル「水にあふれる農薬の実態」

資料の表である”新潟市と上越市の河川および水道水中の除草剤CNP濃度”をみると、どちらの川も、田植えが一斉に行われる5月の第1週に急増していることから、水田にまかれた除草剤が速やかに河川に流出することがわかる。そして、信濃川を水源とする新潟市の水道水からは、信濃川と同レベルの濃度で除草剤が検出されているのに対し、ダムや地下水を水源としている上越市の水道水は、4月~7月を通じてほぼ同じ濃度を保っていた。つまり、塩素消毒などの浄水処理ではCNPは分解されることなく人々に摂取されていたのだ。

またのちにこのCNPと同じく水田除草剤として使用されていたPCP(ペンタクロロフェノール)には、不純物としてダイオキシンが含まれていることが判明し、水域に入ってくるダイオキシンは、それまで主な発生起源とされていた燃焼起源(ゴミ焼却炉など)よりも、除草剤起源のほうが大きいと考える研究者が現れた。

そこで山室教授は、宍道湖堆積物の柱状試料を使ってダイオキシンの含量を調査したところ、除草剤不純物起源のダイオキシンが、水田での使用開始直後から湖に流入していたこと。そして、堆積物中ダイオキシンのうち燃焼起源は14%に過ぎず、残り84%が除草剤であることを世界で初めて突き止めたのだ。この研究から、日本の平野部の水域では、水田排水の影響が必ず及んでいて、これが、除草剤によって平野部の沈水植物の衰退が引き起こされたと突き止められたのである。また、2024年の2月27日のNature Communicationに記載された論文で30年にわたる世界661地点のデータを統合し、除草剤のプランクトン相への影響が地球規模で評価されている。つまり、除草剤が川や海に流れ出し、水生生物に深刻な影響を及ぼしているという報告がなされた。

海に到達した除草剤は、海洋生物系に必須である植物プランクトンを始め、連鎖的に多くの生物に影響を与えると考えられている。たとえば主に農業で使用されるトリアジン系除草剤のうち、アトラジンという物質は光合成を阻害する作用があり、植物だけではなく、緑藻や珪藻にも影響を与えていることが知られている。特定の植物プランクトンが減少することで、それらを捕食する動物プランクトンや魚までも個体数や体サイズが減少する可能性があり、漁獲量の減少や食料供給の不安定化など漁業経済の悪化も懸念されている。その一方で、特定の植物プランクトンが増殖しすぎた場合(赤潮)も、海水中の酸素濃度の低下や一部の有毒藻類による有害物質により、漁類や貝類の大量死を引き起こす可能性もある。また、海は漁業以外にも、二酸化炭素を吸収して地球の温暖化を防止したり、観光資源としての役割を担っている。海洋資源を守ることは、人間の生活の豊かさを維持するために重要といえるのである。

海洋資源は地球上でもっとも広大で多様な生態系のひとつであり、人間の生活に欠かせない多くの恩恵をもたらしているが、その繊細なバランスは現在多くの脅威にさらされている。化学肥料や農薬の使用を減らし、環境負荷の少ない方法や、有機農業のように、自然の力で作物を育てる方法を模索することで、地球を守りながら豊かな生活を発展させることができるはずだ。

次号に続く

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