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海のブルーカーボンに注目(山と海の生態連携の重要性)

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.5

2024年9月18日 業務執行理事 南埜 幸信

ブルーカーボンとは、大気中の二酸化炭素(CO2)が海洋生態系に吸収され、長期間にわたって海洋内に貯留される炭素のことを言い、植物プランクトン、海草や海藻などの植物が光合成によって海水中のCO2を効率的に有機物として固定するとき、海水のCO2濃度が減少した分、大気から海水へのCO2の吸収がおきることになる。生態系全体でみると、地球上で生物が吸収する炭素のうち、55 %は海洋生物が担っていると言われている。特に注目すべきは、海洋面積のわずか0.5 %以下に過ぎない沿岸域が、海洋全体のCO2貯留ポテンシャルの80 %近くを占めるという事実だ。さらに、沿岸生態系の面積当たりのCO2の吸収速度は、森林生態系に比べて5~10倍も高く、このような地球上で最も高い生産性が、ブルーカーボンが注目されている理由の一つだ。

ブルーカーボン生態系とは、CO2の吸収源となる海洋生態系のことで、「海のゆりかご」とも呼ばれる藻場(海草・海藻)、干潟、マングローブ林など光合成をする生物が多く存在する海洋生態系がこれにあたり、特に注目を集めている。光合成によって有機物として固定された炭素は、干潟、海草藻場、マングローブ林内の堆積物に埋没して長期間貯留されることになる。また一部は、例えば「流れ藻」あるいは海藻の出す粘液のような「溶存有機物」として外洋に運ばれ、さらに深い海に沈んでゆっくりと分解されながらも長い間海中に滞留し続ける。分解を免れて深海底に堆積したものもブルーカーボンになるといわれている。

さらに、水深500 mを超える海洋の中深層以深に運ばれた有機物は、たとえ分解されてCO2に戻ってしまっても、長期間にわたって大気と隔離されることから、これもブルーカーボンに数えられると考えられている。

ブルーカーボン生態系はまた、生産性ばかりでなく生物多様性も極めて高い生態系であり、産卵場所や仔稚魚の育成地として重要な環境を提供する。さらに、私たち人間にも水質の浄化、教育やレジャーの場の提供、生活文化の醸成など、コベネフィット(共通便益)をもたらし、まさに地球の宝というべきものだ。

この地球の宝のひとつである沿岸近海の藻場が急速に退化消滅が進んでしまっている。近海で魚が採れなくなってきた原因もここにあると言われている。先日千葉県の最南端館山市のオーガニックビレッジ宣言の構想準備のために、館山市内にある東京海洋大学の研究室を訪問した。実は私の高校の同級生が東京海洋大学の名誉教授をしていて、現在はベトナムでメコンデルタの水系農業と漁業の融合産業育成にチームで取り組んでいて、その彼から紹介され、館山ラボの松本先生にお会いできた。松本先生曰く、この房総半島の近海は藻場が殆ど消滅していて、サンゴが生育エリアを拡大しつつあるという。この原因について、研究者の間では、ひとつは近年の海水温の異常上昇。もうひとつは研究者もなかなか立ち入れていない分野の、川から海に流入する水質の変化があると言われているようだ。

水を媒介にした、陸地と海の生態系としての物質循環は、山が海を育て、海が山を育てと、重要な生態的連携があることは十分に知られている。宮城県では牡蠣の養殖事業者が良質な牡蠣を育てるために、山に植林をという運動をされていたことも知られている。むしろそもそも日本の農業は長い歴史のなかで、地域の里山と里海からの養分の供給と調達によって、地力を高め、人口増への食料供給を達成してきた、世界に冠たる持続的な農業技術を持ち、これが世界の有機農業のモデルになってきたのである。ここで私たちは、藻場の消滅と近海の魚の減少について、農業の本質から現在の技術体系を根本的に見直し、持続的農業技術としてのオーガニック農業技術を今こそ完成させないと、大切な海の生態系を維持できないという、人類史最大の問題を引き起こしてしまうことになる。今こそ地域の農業者と漁業者が一体になって、持続的な農業と漁業の両立を目指し、タッグを組むべき時と考える。農協と漁協の壁を取り外し、地域自然産業融合推進組織の提案をしたいと思う。

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