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みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.4

2024年9月12日業務執行理事 南埜 幸信

国産有機冷凍野菜の取り組み報告

先日鹿児島有機組合の農産担当から連絡が入った。今年の秋の作付けから、有機冷凍ほうれん草の原料の作付けに取り組みたいので検討してほしいということ。実は7月に実施した今年の冷凍原料ほうれん草の作付け会議に、話を聞きたいということで、鹿児島有機組合の代表と担当者が参加してくれていて、実際の生産者と協議を重ね、やってみようということになったようだ。聞くと有機生産者の年齢が85歳。そろそろ体力の限界が見えてきて、といって有機農業は続けたい。そのなかで原料作付けに取り組むという選択肢を考えたということ。

この冷凍原料ほうれん草は、人手を使わず、機械収穫を前提に作付け作業体系を組み立てている。生産者は栽培管理はするが、収穫は冷凍加工工場から派遣される機械とオペレーターがやってくれ、そのまま加工工場に持ち込まれ、選別も工場でということで、収穫は立ち会うのみでOK。しかもこの収穫機械は、一日50アール。収穫量で10トンまで作業可能という優れものなのだ。高齢化しても、人手不足で悩んでいても、一番人手がかかる収穫・調整・選別・計量・箱詰めといった作業から生産者を開放する仕組みなのだ。

いま全国の農業生産者の共通の悩み。それは担い手の高齢化と、人手不足。このまま放置していくと、農業経営自体が維持できなくなるという深刻な問題になる。圃場はあってもそれを耕作し栽培していく人が減っていっては、食べ物が無くなってくる危機が現実の目前に迫っているのだ。そのような問題を解決する手段として、機械収穫・工場選別を前提とした加工原料生産は、これからの有機農業はもちろん、日本の農業そのものの存続にかかわる重要なカギを握っている。単に原料を国産にするという表面的な話しだけではないのだ。

従来は加工原料を考えるときに、たいていは、青果出荷で規格から外れるもの。つまり規格外品を原料に回せばよいという、おこぼれでついでの加工品という発想が席巻していた。実はこの発想が、国産の加工原料をコストの高いかつ加工特性の無い加工原料にしてしまい、結果的には国産原料があてにされなくなり、冷凍野菜の海外生産シフトをもたらしたのだ。私は一般社団法人日本有機加工食品コンソーシアムで国産の冷凍野菜というテーマをいただいたとき、まずは根本的にこの加工原料の作付けに対する考え方を改め、加工に最も適した品種を、機械収穫を前提に取り組むという有機農業での栽培体系の構築から取り組もうと考えた。それによって、高齢化で人手不足に悩む生産者も、さらに面積を拡大して、有機農業を続けられるモデルを構築したいと考えた。そのうえで、国分グループ本社の冷凍チームとの協力というスキームで、ほうれん草収穫機械を駆使し、オペレーターと収穫機械で生産者から手間労働を開放し、有機認証を取得していく目標を置いていただける、熊本県の熊本大同フーズという冷凍加工企業と組むことを決めた。そして、作付けいただける生産者への作付け依頼打診。希望者との栽培勉強会。この機械収穫を前提とした有機農業での栽培技術の体系化がまずは必要な課題となった。

その一番のポイントは、ほうれん草の収穫機械は、根際の雑草混入を避けるために、少し高い位置を刈っていく。そのためには、ほうれん草を50cmくらいの長さまで育てる技術が必要になる。通常のほうれん草は30cm程度まで伸ばせる施肥体系で設定しているところを、50cmまで伸ばし、後半まで肥料切れを起こさない有機での施肥設計の取り組み。そして、そもそも冷凍加工では異物扱いとなる雑草を生やさない作付け前の太陽熱処理。そして、栽培圃場の周りに、異物となる落ち葉を落とす木が無いかどうか。このことを生産者どおしで共有し勉強し確認し、かつ、冷凍工場の原料担当者の圃場確認という手続きを経てはじめて作付けに取り掛かっている。この加工を前提とした事前検証と技術研修が大切な取り組みなのだ。50cmの長さまで伸ばすというのは消費者にとっても実はメリットが多い。ほうれん草の苦み(アク)の原因となるシュウ酸は、この長さまで生育すると、ほうれん草の体内からほぼ消えていく。そして旨味が増す。つまり普段食べている30cmくらいのものと比べ、アクが少なく甘み旨味が増すということになる。逆に言うと、青果出荷もこの長さまで置いたほうが良いと思うのだが、店の棚に入らないとか、商品の見栄えの問題が優先されて、30cmの若採りという勿体ないことをしているとしか思えない。大きくすると生産者も収量が増え、消費者も美味しいほうれん草を安く購入できるという両方のメリットが見えてくるのにと残念に思っている。

とにかく、今回鹿児島組合の生産者からの連絡を受けて、これから実際の太陽熱処理の状況と圃場の周りを担当者が確認し、合格して初めて作付けを依頼することになる。事前の手続きと準備があってこそ、美味しい冷凍ほうれん草をリーズナブルな価格で消費者に届けられ続けることができる唯一の道となる。原料ほうれん草作付けは10月下旬~11月上旬頃。そして収穫は翌年の2月下旬から3月上旬。つまりはほうれん草の生育にはベストの時期。いちばんの旬の時期に集中して出荷できる。一番おいしい旬の味を年中味わえる。この冷凍野菜のメリットもぜひ消費者の方々と共有したいと望んでいる。この取り組みは生産者を過酷な労働から解放し、消費者には安心と美味しさと利便性を提供できる真の意味でのWIN-WINの取り組みなのだ。

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