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有機農業のあるべき姿とは~持続型社会はオーガニックから vol.1

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.10

2024年10月 業務執行理事 南埜 幸信

(1)国連のアジェンダSDGs

地球温暖化や水資源および地下資源の枯渇、そして農業の課題が、環境問題とリンクが進むにつれて、環境と農業の関係、農業と生物多様性の問題が明確に浮き彫りになってきた。

それは2020年に国連のアジェンダとして採択された、サステイナブル・デベロップ・ゴール(SDGs)によって、社会全体の課題と共有され、オーガニックの取り組みの重要性が農業においてはその中心に位置づけられることになった。このSDGsは誰一人取り残さないという強い決意のなかで世に登場した。世界全体で取り組む課題ということになる。

農業が持続的に発展し、永続的に人類に食料という命の糧を供給し続けること。これがオーガニックに課せられた課題である。このことから、オーガニックは単なる化学的な肥料や農薬を使わないということではないことが理解できる。たとえ有機肥料や堆肥であっても、それが持続的調達、つまりその地域で永続的に調達可能なものでなければ意味がない。オーガニックの基準に合致するということだけで、それを他の国や地域から、あるいは地下資源から調達していたのでは、それは持続的な農業ではない。有機農業によって、それぞれの地域で、地域の持続的な資源に基づく農業技術体系が確立していなければ、それはオーガニックではないということになる。実は日本の有機生産者のなかでも、有機肥料は肥料業者から購入しているという生産者が結構いる。有機への取り組みが始まったばかりで、当初かなりの土壌改良が必要な圃場はやむを得ないが、それも地力がついてくるにつれて、早々に軌道修正していきたい。つまり、地域の里山・里海の資源に由来する有機物によって土づくりを継続していくこと。これが有機農業の本質である。それができて初めて有機農業は持続的農業システムであると言える。

この里山・里海の生態系は、放置された自然の実態ではない。この生態系は、人間が正しく関わり管理することによって、歴史的に永続的に維持されてきた、自然と人間の共同作業のまさしくレガシーなのだ。たとえば里山の広葉樹。これは人間が許される範囲で剪定や間伐という生活利用をすることによって、むしろ永続的に維持されてきた資源である。放任では維持できなかったまさしくSDGsなのだ。例えて言えば、長期の定期預金で、元本の部分を維持管理し、利息を毎年人間が活用させていただく。その表現がぴったりだと思う。

私は昨年、チャンスをいただき、ベトナムのいくつかのオーガニック生産者を訪ねて驚いた。彼らは有機肥料や堆肥を他の地域や肥料業者から全く購入せず、有機農業を成功させている。そしてその技術指導をしてきているのは、日本の農業技術者たちである。例えば全圃場の2/3程度を牧草地として管理し、その牧草で牛を育て、その排せつ物を堆肥化して、残り1/3の面積で野菜を栽培している(牛は元来草食動物。何ら不自然はない)。あるいは水田のようなところでナマズの養殖をして、その加工残渣を堆肥化し液肥化して野菜畑の土づくりに取り組んでいる。他の地域からの窒素の持ち込みもゼロ。そしてゼロエミッションの農業である。そして地域の未利用資源も併せて活用し、まさに持続的な農業を実現している。これぞオーガニックの神髄と感銘したことが記憶に新しい。

実は世界のオーガニック生産者が、日本の伝統的な農業を手本に技術体系を構築してきた事実は、まさしく現在のベトナムのオーガニック生産者たちが実現している体系そのものである。日本は長い間鎖国をしてきただけではなく、海外からの肥料の持ち込みなく、基本的に地域の里山と里海からもたらされる資源を生かして土づくりに取り組んできた。仏教国であったため、肉用の牛ではなく農耕用の牛であったため、餌として有機物が他の地域からもたらされることも無かった。それでありながら、人口増をしっかりと支えてきている。これをなし得たのは、養蚕業とキノコ栽培を中心とした里山資源と、海藻や雑魚などの海の未利用資源と圃場をつなぐ地域産業なのだ。農業書などを紐解いていくと、里山資源をルーツにする蚕の糞は、かなり栄養が豊富であったことから、いったんは牛の餌となり、その先に圃場に還元されている。里山と里海からの持続的な資源を地域産業として上手に生かし、そのサイクルに農業も取り込む。まさしく日本は世界に冠たる持続的有機農業の先進国である。世界の有機生産者が目標ともする農業技術体系である。

土壌分析をして、土の養分状態をはかり、肥料成分としての有機堆肥の投入という取り組みが随所で見られるが、堆肥の役割としてはこの養分供給というのはその一部で、その植物繊維から土壌の小動物や微生物によって創られる腐植は、土壌の物理性と生物性の改善に大きく資することになる。その意味では、穀物の輪作や、緑肥の導入も大切な技術である。まさしく持続的な農業という取り組みの先頭に有機農業があるとすれば、地域の里海・里山資源を基本にした有機農業こそ、推奨されるべき取り組みなのである。

次号に続く

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