
国産有機ごまの栽培勉強会の開催報告
みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.28
2025年3月 業務執行理事 南埜 幸信
先日、ウェブでの実施ではあったが国産の有機ゴマの栽培勉強会を実施した。全国から10生産法人の参加をいただき、実際に国内でゴマの栽培と研究にあたる専門家の方を講師に、熱心な質疑応答も含めて、有意義な勉強会になったと感謝している。
そもそもこのゴマについては、国産の自給率は0.1%以下と言われる惨憺たる状況。セサミンの機能性と健康貢献効果がうなぎのぼりで、様々な日本料理のトッピングとして、無くてはならない穀物であるのに、この自給率の低さは、驚くべきものである。何も対策しないに等しい。ほとんどを輸入に頼っている。主な相手国は、アフリカ、中南米、そして東南アジア(特にミャンマー)等、農業経営形態も、政情も、不安定な国々が多い。本当に長期に安定的に輸入できるのか?疑問をもたざるを得ない。栽培容易ではあるが、機械による一貫収穫体系ができていないことが最大要因であろう。人件費の安い国でないと栽培できない作物であるということである。
実はこのゴマ栽培、国内の有機栽培への導入を検討すると、有機での土づくりに有効な作物であることが見えてきている。導入のメリットが大きい作物である。
ひとつは獣害のないこと。いま日本の特に中山間地では、鹿やイノシシ、地域によってはキョン(鹿の仲間の動物)、サルなどが畑に侵入して食い荒らすといういわゆる獣害が深刻な問題になっている。特にイノシシは低い柵で侵入を防止できるが、鹿とその仲間については、約2メートルのハイジャンプができるので、それよりも高いフェンスで畑を囲わなければならない。これが大変な費用になる。獣害対策が、地域経済を圧迫し、農業経営を疲弊させているのだ。この鹿が食べない。つまり獣害が無いというのは、中山間地の農業にとっては、たいへんなメリットになる。
さらには、高温旱魃に強いこと。アフリカ原産と聞くと頷けるのだが、近年の日本の夏場の高温旱魃は、日本農業全体にとって大変なダメージを与えている。作物の生育の限界温度を越える異常気象が続いているのだ。この点においても、ゴマ栽培については、夏場の安定作物として、ひとつの大きな柱になる可能性を秘めている。
また、生育積算温度の2000℃というのは、夏場の平均気温を25℃とすると、80日で収穫できる作物である。つまり、生産者にとっては、春に作物を栽培し売り上げを得た後、7月に種まきをして、9月の収穫、その後は秋の野菜の栽培が可能という、ワンポイントの無駄のない輪作体系が構築できることもメリットである。これは従来の緑肥輪作ということでは、イネ科のソルゴーがよく利用されてきたが、ソルゴーは牧草であって、収穫物はないので、あくまで土づくりとしてのコストであるが、ゴマは背丈の高い緑肥としての活用はもちろん、実の収穫から一定の売り上げを見込める。土づくりをしながら、一定の収益が挙げられるという一石二鳥の作物なのだ。もちろん、茎と葉から堆肥材料を得ることはできるが、地下部の強くて大量の根は、多くの土壌微生物(エンドファイト)を育む根圏の生成を予感できる。その意味でも、高い土づくり効果を期待できるのではないかと考えている。
そしてこのゴマは、油脂植物として、有用な高い油脂含有率を有している。いわゆるゴマ油である。日本の食料自給率を低くしている大きな原因が、家畜の餌の輸入と、植物油の輸入と言われているが、このゴマの自給率の向上は、油脂の海外依存を減らす大きな取り組みとなってくるものと期待している。
今回の勉強会。出席者に北海道の生産者が約30%いたことには驚いている。従来ゴマ栽培の北限は岩手県と言われ、北海道では実績が無かった。ところが近年は北海道でもさつまいもや落花生の栽培が本格的に始まってきたことでお分かりのように、ゴマについても、特に黒ゴマは、北海道での栽培事例が生まれてきている。コメや麦のように、機械による一貫栽培体系が確立されれば、日本のゴマ栽培で、北海道が大きな産地になる可能性を感じた勉強会でもあった。
次号に続く