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根圏という根と微生物の共生(呼吸)圏について

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.6

2024年9月24日 業務執行理事 南埜 幸信

皆さんは根圏という言葉をお聞きになったことはありますでしょうか?これは、下の図のように、植物の根と、その表面から約5ミリの圏内に集約される土壌微生物によって創られる、生命と生命が互いに生きるための養分を得て、ギブ&テイクで共生しあい、生活圏を共有する濃密な世界なのだ。

私を含め現在のような土壌微生物学が発展しない時代に農学部に入った人間は、まず教えられる原則は、植物は水溶性の窒素とリン酸とカリを一方的に吸い、それを養分として成長する。つまり植物の根は、一方的に養分を吸うだけの機能しかないといういわゆるドイツの土壌学者のリービッヒによる「無機栄養説」であった。この説が、根圏に集中する根と微生物の間の生命の相互呼吸ともいうべき代謝を研究する土壌微生物学の発展によって、学説の大転換が行われることとなった。つまりは、根は土壌から養分を吸うだけではなく、根の周りに自分の養分吸収を助けてくれる土壌微生物を養うために、土壌微生物の養分を出しているということが解ってきた。つまり根圏の微生物は、植物の根によって養われ。それに応えるために、土壌に結合している植物がそのままでは吸収できない養分をかみ砕いて供給するという、共生関係にあるということだ。

根が一方的に養分を吸収するだけという学説は、土壌不要論を産み、水耕栽培に繋がっていく。地球が長い年月をかけて育んできた貴重な生命遺産である土壌を不要とする農業を考えようとしてきた。しかしながら、根圏によって植物の生育が導かれているとすれば、これは水耕栽培では完全な生育は満たせないという答えがでることは明白になる。この根圏微生物は、人間の腸内細菌にあてはめて考えると理解しやすい。人間も小腸での最終的な養分吸収は、腸内微生物の助けを得られないと達成できない。最近はこのことの重要性が広く知られてきて、腸内微生物の餌となる「水溶性植物繊維」を食事のなかで取り入れていくことが、老化を防ぎ、免疫力向上や美肌を保つことに役立つと、多くの方が理解するようになっている。この腸内微生物は小腸内の絨毛と呼ばれる部分、ちょうど植物の根でいえば、毛細根の茂みのなかに住んでいる。ここまで話をすれば、根の周りに土壌微生物の集中的な生活圏があるというイメージは、皆様のなかにも明確になってくると思う。

さらに進んでいえば、土づくりについて、生きた根を土中に沢山入れることによる土づくり効果である。ここで考えてほしい。いかに良質な堆肥を手に入れたとしても、それを機械的に混入できる範囲は、現代の農業機械ではせいぜい地表から15cm~20cm程度である。しかし植物の根が生育する範囲つまり根圏が形成される範囲は地表から100cm~200cm。この根圏で生き物の共生圏が生まれる範囲を広げることこそが、土の基本地力の向上の根本技術であるということだ。有機農業の土づくりで私たちが取り組みの大きな柱として位置付けてきたのは、ひとつは良質な堆肥(養分豊富ではなく、あえて良質と言っておきたい)の確保。そして、根を大量に土中に拡げる力の強い土づくり作物の輪作。ここまでくると皆様にも十分ご理解いただけると思う。

私が大学の農学部に入った時、有機農業というと大学の先生方は、植物が有機物を吸収できないのだから、化学肥料を使ったほうが合理的で経済合理性がある。なぜそんな過去の農業に回帰するような取り組みを言うのかと批判された。そこで私は大学での学びに失望し、大学生活の4年間は、ひたすら全国の自然農法の実践生産者のところに飛び込み研修をすることに没頭していた。それがこの40年で歴史的大転換が起こった。根圏微生物の研究は、生命の共生の場としての土壌という考え方を明らかにしたのだ。このうえに現在のみどりの食料システム戦略実現があると思う。

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