
茨城県でJA有機農業指導員が誕生
みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.32
2025年4月 業務執行理事 南埜 幸信
茨城県は有機農業の普及に熱心な県の一つである。最近は小職も茨城県庁にお伺いする機会がめっぽう増えてきた。以下に紹介する資料は昨年の2月に、県の広報誌に掲載された有機農業についての特集である。県の広報誌にここまで有機農業が取り上げられるのは、たいへん珍しい。しかも茨城県は日本有数の農業県であり、日本の食料生産基地といわれる地域だけにこの意義は大きい。
かねてより、この記事に紹介されているふしちゃんファームや、レインボーフューチャーなど、全面的に有機農業に取り組む生産団体や法人の支援を続け、最近では、茨城県の北部地域の常陸大宮市や常陸太田市などで、有効に活用されていない農地を県の指導で集約し、有機団地をつくるということで、県内の優秀な有機農業の生産法人の誘致に力を注いでいる。前出のふしちゃんファームやレインボーフューチャーさんも、支店を出す形でこの有機団地に入植し、有機農業を拡大している。
茨城県の有機農業の事業目標として興味深いのは、知事自らが有機農業の分野で茨城県が日本一になることを宣言していること。面積では北海道に勝てない。有機面積の比率では、有機の柚子で有名な高知県の馬路村には勝てない。では何でというと、茨城県が日本一の品目で有機農業の拡大を進めることだということで、「くり」、「さつまいも」、「そば」で重点的に有機農業を推進することで、具体的な拡大目標を定めている。特に「くり」については、県が出資して加工工場を立ち上げているし、さつまいもについては、県内の加工メーカーへの積極的な支援も続けている。
そして、3月28日の日本農業新聞の記事をみて、本当に驚いた。こんな時代がこんなに早く来るとは思わなかったが、JAグループ茨城の職員9名が、3月中旬に県から「有機農業指導員」に任じられたというニュースである。彼らは今後各地域で、有機農業の栽培技術や、有機JASの認証取得について、指導助言を進めていくとのことである。実は茨城県は、2022年度から農水省の「みどりの食料システム戦略推進交付金」を活用して、有機農業指導員を育成してきている。これまでは、普及指導員などの県の職員を対象に、22人の有機農業指導員を育成してきたが、一層の有機農業指導体制の強化を図るため、24年度はJA茨城県中央会と連携して、対象者をJAの営農指導員にまで広げたという経過である。今回有機農業の指導員に位置づけられたのは、JA水戸、JA常陸、JAやさと、JA水郷つくば、JA全農茨城、JA茨城県中央会の職員9名と、県職員18名の、合計27名となる。
小職は今から約20年前に、大手町の全農本部で、部課長以上が集まって有機農業の勉強会があったときに、講師として呼ばれ、有機農業の産地づくりについて、取り組んできた内容を報告し、全農の幹部の方々と意見交換をしたことがあった。その当時、全農グループとして有機農業を推進していくためにどのような体制ですすめればよいかという質問を頂いた。その時にお話をしたことは、有機農業はいままでJAがすすめてきたような、普及指導体制で進められる農業ではない。普及技術があって、それをすべての生産者に指導していくやり方は複雑な生命系のシステムを前提に進める有機農業では現場に合わない。有機農業の指導員は、営農指導ではなく有機農業の営農支援に徹するべきである。有機農業を志す生産者を支援し、その経営成長をサポートしていく役割が求められている。ボトムダウンではなく生産者のサポーターを育成してほしいという話をした。今回の茨城県の有機農業指導員には、この姿勢を常にお願いしたいと考えている。
自然界の生命を育成するメカニズムは、現代の科学技術ではそのシステムを解明することは到底不可能である。有機農業は、自然の摂理について常に謙虚に耳を傾け、その成長を素直に感じられるありようが大切である。この前提でぜひ協力しながら有機農業25%の国を目指していきたいものである。
次号に続く