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有機農業のあるべき姿とは~持続型社会はオーガニックからvol.3

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.12

2024年11月 業務執行理事 南埜 幸信

(3)農薬が生物に与える影響

以前とある大手流通企業の幹部の方から質問をいただいた。「農薬は人体に対する影響を検証して使用を許可されているわけだし、散布された後は、自然界で徐々に分解が進むので、農業の使用については大きな問題ではないのではないか?」という内容であった。

その時の私の返答は、「人体への影響の有無によってのみ、農薬の使用を許可しているのはたいへん無謀。自然界は人間含めてすべての生命が調和して生かされ、そのなかに人間の生命もある。農薬の自然界すべての生命系のシステムに対する影響を精査しないと、ひいては自然界から人間の存在が許されなくなる。」と答えた。人間には安全であっても、自然界の生態系に何らかのかく乱が生じる以上、それは食物連鎖の頂点にいる人間に、やがて大きな影響を与えかねない。従って、化学的な農薬の使用をしないオーガニックは、後の子孫にたいする私たちの責任と考える。どんな瑕疵が潜んでいるか、自然生態系への影響について、すべてを理解し解明し使用が許可されているものではない。

先日、千葉県の館山にある、東京海洋大の研究室の松本先生を紹介いただき、情報交換をさせていただいた。私がお伺いいしたかったのは、最近千葉県の房総半島の近海で魚釣りを楽しむ方々が異口同音に、「とにかく魚が釣れなくなった」という声に対して、海洋学者はどのような見解を持たれているかということであった。

海洋資源と陸の生態系、特に陸の農業との関連については、世界各国から注目すべきレポートが届くようになっている。近海の豊かな海を育てるのは、森林・里山かを起源とする生物起源養分であり、それが藻場を育て、海洋プランクトンを育て、豊かな海産物資源の生産を支えている。この豊かな海産物資源が減少しているということは、この生態系のメカニズムに何かの破綻が起きていることは間違いないと考えるべきだし、資源が復活不可能にまで陥る前に、できるだけ早く社会全体が連携して対応しないと、人類生存の大きな危機を迎えることになることは自明である。

いま海洋特に、近海の海で何が起こっているのか?まず現状を知りたいと、松本先生から貴重な情報をいただいた。松本先生は、まず房総半島近海の藻場が消滅の危機にあること。それが近海の魚の住処を奪い、餌を奪っていることがはっきりしてきている。しかも驚異的なスピードで、藻場が消滅しているとのことである。(磯焼けという現象)

この要因として先生は二つ考えられるとお話をされた。一つは近年の海水温の上昇。房総半島の周辺の海も、平均1~2℃上昇している。このために、ウニなどの海藻を食べる生き物が冬眠しなくなり、近海の海藻を食べつくすようになって、藻場が消滅してしまっているということである。余談だが、ウニはキャベツの外葉やブロッコリーの茎など、野菜の残渣が有用な餌になる。特に食べ物の影響が味に直接現れると言われているなかで、特にキャベツの外葉やブロッコリーの茎などは、えぐみや苦みが多く食用に適さないうえに藻場を食い荒らし、駆除の対象となるウニの味を、良い味に仕上げる、いわゆる和牛でいうと「仕上げ飼料」のような役割になり、このことを活用して、神奈川県の水産試験場は、三浦半島特産のキャベツの外葉をウニの餌にした「キャベツウニ」というブランドを売り出しにしていたり、愛媛県の愛南町では、ブロッコリーの茎などの廃棄物を、水産庁によって藻場の維持のために駆除された雑ウニを捨てるのではなく、数週間程度ブロッコリーの茎を餌として与えることで、良質な良味のウニとして出荷するというプロジェクトを進めている。ウニのブランドとしては、「ウニッコリー」藻場の維持と、農業と漁業のコラボにより、新しい水産資源の開発をすすめている素晴らしいプロジェクトだと思う。

さて、東京海洋大学の松本先生の話に戻すと、近海の藻場の消滅でもう一つの大きな原因は、川から海に流れ込む生態かく乱物質、化学物質、農薬等の影響が考えられるとのこと。しかしこの分野の研究は殆ど手を付けられていないので、歯がゆい現状があるとのことであった。陸で使う化学肥料は、たとえば石垣島やトンガのサンゴ礁の減少の原因となるオニヒトデの発生を助長すると特定され、赤潮や青潮などの富栄養化の原因として監視されるようになってきたが、川から流れ込む農薬の影響については、実は集約されているレポートを見たことがない。松本先生のように、おそらく未解明のままであることが想定される。

私は当然除草剤の影響は考えるべきではないかという仮説をまず考えたい。そして、殺虫剤など、小動物や昆虫に影響を与える農薬の生態系への影響である。農薬は基本的に人体に影響がどの程度あるかだけで、使用の許可がされている。使用の基準も、使用の頻度や濃度も、人体に対する影響を基準にして使用が許可されている。そろそろこの検証をすべき時になったのではないかと強く提言したい。

私事で恐縮だが、数年前、小学校の教員をしていた小職の次女が、明日の理科の授業で使うというザリガニを、近所の水路で収集して、虫かごに入れて玄関わきに保管していた。その後帰宅してきた長女が、玄関を開けたときに蚊が入ったからと、玄関内でワンプッシュタイプの殺虫剤を一回散布した。そのとたん、ザリガニがバタバタと気が狂ったように暴れ出し、数分後に全部死滅してしまった。わずか一回の噴射である。それからの我が家は、家族総出で夜間のザリガニ釣りに出かけることになったのである。このようなことが、海洋生態系でおこっているのではないか?この疑問にたいへん興味深い書物に出会った。東京大学の山室真澄教授の「魚はなぜ減った? 見えない真犯人を追う」という著書である。その内容はぜひ次号で紹介したい。

次号に続く

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