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みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.7

2024年10月 業務執行理事 南埜 幸信

今なぜ有機農業なのか

⑴先進国の農業問題

イギリスや日本など一部の国を除いて先進国では、農産物がとれすぎて、余剰農産物をどう売るかということが共通の問題になっている。日本に対して世界貿易機構(WTO)がミニマムアクセス(最低輸入量)で米の輸入を強制してくる。これには、食料を持つ国が外貨を稼ぎたいという経済的要求と、相手国の食料の供給そのものを支配することで、実質的に経済的属国にしたいという、いわゆる武器としての食料輸出戦略が複雑に絡み合っている。しかし、これらの問題の本質は、小麦やトウモロコシがとれすぎて余っていることにある。アメリカなどでは2008年、政府の政策的な導きがあったとはいえ、バイオエタノールという燃料用に、大量のトウモロコシが向けられたことをみても、よくわかる。しかし、その一方では、先進国の農業は共通の問題として、農地の荒廃に拍車がかかり、耕作放棄地を含め農地の減少が深刻な問題となっている。つまり、農産物がとれすぎて余っているのに、農地は拍車をかけて荒廃が進むという矛盾がはっきりと現れてきている。

通常は、農地が良くなり、土の基礎能力としての植物を育てる力(地力)が増し、生産力が向上して作物が豊富にとれて余ってしまうということだが、そうではないところに農業が抱えている深刻な問題があると言わざるを得ない。つまり、この現象は不自然にねじれた増収というようなものである。これこそ食料増産を焦るあまりに、化学肥料や農薬を集中的に大量に投入することによって引き起こされた問題といわれている。特に古くから農業生産の主力の役割を果たしてきた地域では、圃場(ほじょう)の地表面の土が、降雨によりごっそりと流されてしまったり(表土流亡)、化学肥料の残りカスの堆積として塩類の集積が進み、もはや植物を育てることが不可能になってしまった土壌、つまり土壌の砂漠化が進行するという由々しき事態に陥ってしまっている。まるで石炭や石油などの地下資源と同じように、土壌の使い捨てが始まっている。永続的な人類の財産であるはずの土壌が、消費財になってしまったのである。人類史上、文明の発祥地として有名な過去の四大文明地域のように、文明の最後は砂漠地帯になるという過ちを、私たちは再び繰り返そうとしている。この塩類集積を中心に、土壌の砂漠化の解明とその防止策についての研究で有名な、鳥取大学の井上光弘先生のレポートによると、人が住んでいたところや植物の生えていたところが、気候変動や人間の活動によって、土地が荒れ自然の営みが破壊され不毛の大地に変化していく、いわゆる砂漠化の進行が世界的に深刻な問題となっている。この砂漠化の原因としてレポートは、自然的な要因が13%であるのに比べ、過度な農業開発や過放牧などの人為的な原因の占める割合が87%と、圧倒的に人の自然界への働きかけが原因となって砂漠化が進行していると指摘している。

つまり、地球規模で生じている気候変動や長期の干ばつ、降水量の減少などの自然的要因によるものより、家畜の過剰飼育や、過度な肥料の施用や農薬の投与など、不適切な農業開発というべき人間の活動そのものが、砂漠化をもたらす主な原因となっているということである。アフリカで過放牧、アジアが過放牧と樹木の過伐採が多く、オーストラリアで過放牧、北米で不適切な土地、水管理が多いことが原因とされている。世界全体は、過放牧と不適切な土地や水管理を原因とした砂漠化が進行している。つまり、農業そのもののありようが問題なのである。解決策として井上先生は、生態系の環境保全と、過剰な肥料や農薬の投入を止め、生態系として物質収支のバランスを図ることを基本に、自然エネルギーの利用を基軸とした、持続的農業技術体系の確立が重要であると指摘している。

⑵農産物の品質低下

一方、この不自然な増収はもうひとつの問題として、農産物の品質低下をも引き起こしている。経済効率優先の現代農業は、増収のための窒素肥料の過剰投入により、作物に含有する硝酸塩(硝酸態窒素)の異常な高濃度化が問題になっている。これは肥料の三大要素といわれる窒素、リン酸、カリウムのうち、特に窒素肥料は作物の体を大きくする効果が高いことから、増収を求めるあまり過剰に投入され硝酸塩に変化して、作物体内に蓄積され残るという品質低下である。植物の体を育てる代表養分である窒素(肥料成分としては硝酸塩)は、まさしく両刃の剣である。植物を育てる養分でもあるが、自然界の中や体内で、容易に亜硝酸態の窒素(亜硝酸塩)に変化する。この亜硝酸塩こそ、以前はハムなどの発色剤として食品添加物に使用されていたが、後に発ガン物質として使用が禁止されたものである。つまり硝酸塩は、ガンを誘発するおそれのある、人体に有害な物質である。しかも、日本の野菜に含まれる硝酸塩濃度は、手遅れになりかねないほどの危険レベルに達しているのだ。

1976年から1997年まで、野菜の硝酸塩の含有量について東京都が調べてきたデータがある。東京都は当初、検査の目的を掲載していなかったが、1986年からは「硝酸塩と亜硝酸塩はガンに影響する」と、検査目的を明記している。このなかで、驚くべきはチンゲンサイの最高値である1万6000㎎/㎏という数値だ。これは野菜に含まれる硝酸塩を一㎏あたりに換算したデータで、これまでの検査のなかで最高値を示している。世界保健機関(WHO)は、硝酸塩濃度の単独致死量を4gと定めているので、このデータからすると、たった3株程度を食べただけで致死量に至る計算になる。硝酸塩は発がん性だけではなく、血液中の赤血球(酸素を体の細胞まで届ける役割を担っている血液中の成分)と結合して、それを酸素の吸着できないものにしてしまう性質のあることから、慢性の貧血や乳幼児の急性致死症(ブルーベビー病)を引き起こした原因といわれている。さらには、アトピー性皮膚炎、アルツハイマー病、糖尿病、腎臓機能低下からくる透析患者の誘発、すい臓疾患、胃炎、甲状腺疾患と様々な健康障害の原因となっているといわれている。

この野菜の硝酸塩濃度については、ヨーロッパでは明確に、食品への残留基準を持っている。一方日本では、水道水への残留基準はあるが、野菜への残留基準は設定されていない。つまり、人体への影響は問題として認識はしているが、日々の野菜までは管理しきれないというところではないかと思える。この点、愛媛県に本社を置き、静岡県や千葉県や山口県など、全国に直営農場の展開を進める、楽天農業株式会社では、日々のロットについて、野菜の硝酸塩の残留濃度を調べている。この会社は、直営農場のものを取り扱うという原則があり、当然硝酸塩がヨーロッパ基準を設定した施肥の管理をしているうえで、実際に出荷される野菜の硝酸塩濃度もダブルチェックして、安全な農産物の提供を徹底している。楽天農業株式会社は、耕作放棄地の再生を、オーガニックで取り組み、かつ、新規就農希望者を募集して、その現場で育てていくという事業に取り組んできている。世界基準の安全と安心に取り組むという事業の中で、硝酸塩濃度の世界基準以下の野菜を供給することは、食べ物を出荷する企業として、最低限の責任と地道に取り組んでいる。心から敬意を表したい。

現在、人類が作物を生産する農地として利用できているのは、地球の陸地面積のわずか3%程度といわれている。まさに農地は非常に貴重な資源であり、人類の大切な財産である。様々な優良条件が重なって初めて作物の栽培が可能になり、また時間をかけて先祖が耕作を続け、地力を高め、治山治水によって条件を整えてきたという意味では、長い人類の歴史が生み出してきた農地は、何にも代え難い財産である。この貴重な財産が、まさに本来自然に優しいはずの農業によって蝕まれてきている。そして、そこから生産される農産物は、食べ物としての本来の性能を失うどころか、人体の健康を直接的に害するような品質になりつつある。今こそ、農業の体質転換をはかり、自然と共生できる農業に切り替えなければならないだろう。人類は過去、優秀な農地を枯渇させてきた。過去の人類が造り上げてきた文明は、結果として農地に永続性をもたらすことができなかったといっても過言ではない。もはやこれ以上の失敗は許されないのである。

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